【演題2】『C1q強陽性のメサンギウム増殖性腎炎を認めた潰瘍性大腸炎の一例』

澤瀬篤志1、阿部伸一1、牟田久美子1、鳥越健太1、山下鮎子1、名和田彩2、西野友哉1

1)長崎大学病院腎臓内科、2)産業医科大学医学部第1病理学

【症例】22歳女性 

【主訴】蛋白尿、血尿

【現病歴】2016年4月の学校検尿で尿蛋白と尿潜血を初めて指摘された。2016年8月に多量の血便がみられ、近医消化器内科で潰瘍性大腸炎と診断、メサラジン投与が開始された。同院から紹介された近医腎臓内科で腎生検の実施を検討されたが受験を控えており、経過観察となった。その後尿蛋白の減少を認め、腎生検は実施されなかった。2017年4月に大学入学のため長崎へ転居し、潰瘍性大腸炎と検尿異常は近医内科でフォローアップされていた。2017年5月から2019年8月まで尿蛋白0.1g/gCr台、尿中赤血球 5-9/HPF、血清Cr 0.5mg/dl台だった。2020年3月に尿中赤血球が30-39/HPFと増加し、2020年12月に尿蛋白が4.27 g/gCrとなったが、同時期にみられた潰瘍性大腸炎の症状増悪の影響と考えられ、経過観察されていた。その後も尿蛋白と血尿は改善せず、血清アルブミンが3.0 g/dLに低下したため、2021年8月16日に当科へ紹介となり、9月2日に経皮的腎生検を行った。

【既往】幼少時から小学生まで3か月に1回扁桃炎を繰り返していた。

【家族歴】父 潰瘍性大腸炎(20代~)、兄 潰瘍性大腸炎(22歳~)

【内服薬】メサラジン腸溶錠 400-1200 mg/日(症状に応じて調整)

【入院時現症】身長:149.0 cm、体重:39.0 kg、BMI:17.65、血圧:102/64 mmHg

口蓋扁桃腫大あり(右>左)。その他、特記すべき所見はない。

【腎病理所見とその後の経過】

皮質:髄質は10:0、総糸球体数65個、全節性硬化1個。18個の糸球体で軽度から中等度のメサンギウム細胞増多とメサンギウム基質の増加を認めた。蛍光抗体法ではIgG、C3、C1qが著明にメサンギウムと一部の糸球体基底膜に沈着していた。抗核抗体陽性および腎生検でのC1qの強い沈着所見から全身性エリテマトーデス等の自己免疫疾患を疑い、自己抗体やIL-6測定等の精査を行ったが、膠原病やキャッスルマン病を示唆する所見はなく、C1q>IgGであり、C1q腎症の可能性も考慮した。しかし、同時期に判明した電子顕微鏡所見ではメサンギウム領域や糸球体基底膜に規則性のない幅20 nmの細線維状沈着を認め、細線維性腎炎と考えられた。

 2017年春から月に1回程度38℃台の発熱を認めており、遺伝性自己炎症性疾患を疑って遺伝子パネル検査を施行したところ、家族性地中海熱でみられるMEFV遺伝子の複合ヘテロ変異(ME148Q/L110P)を認めた。近年、「家族性地中海熱関連腸病変(MEFV遺伝子関連腸炎)」が注目されており、家族性地中海熱の原因遺伝子であるMEFV遺伝子のホモないしヘテロバリアント患者において、小腸・大腸に潰瘍性大腸炎様の連続性病変や潰瘍などが発症することが報告されており、本例でも潰瘍性大腸炎の家族歴があることから、同疾患を疑い、家族の遺伝子検査を検討中、また、発熱発作に対してコルヒチンの投与を開始した。

【臨床側から病理側への疑問点】

1) 光顕と蛍光抗体法の所見が判明した時点で、どのような鑑別疾患を挙げるべきか。

2) 蛍光抗体法のIgGや補体の沈着様式から免疫複合体やC1q腎症で見られるような高電子密度沈着物の沈着を予想したが、電子顕微鏡所見では細線維性沈着を認めた。この違いをどのように解釈したらよいか。3) 本症例の腎病理所見と、潰瘍性大腸炎(家族性地中海熱関連腸病変の可能性あり)やその治療薬との関連は考えられるか。