【演題1】キャッスルマン病に併発した多彩な腎病理所見を認めた1例

久留米大学 腎臓内科 大串 良、黒川佑佳、篠塚由梨、中村奈央、中山陽介、甲斐田裕介、深水圭

【症例】71歳 男性

【現病歴】生来健康で、学童期の健診で異常を指摘されたことはなかった。X-3年5月に健診で尿蛋白、尿潜血を指摘された。BUN12.6mg/dL、Cre0.85mg/dL、eGFR69.0mL/min/1.73㎡と正常範囲内であったが、1日推定尿蛋白2.12g/gCre、尿潜血(3+)と検尿異常を認めた。血清総蛋白8.7g/dL、血清Alb2.8g/dLと低Alb血症、総蛋白/Alb比に上昇を認め、IgG3280mg/dL、IgM11035mg/dL、IgA417mg/dLと多クローン性高γグロブリン血症を認めた。X-3年9月に腎生検を行い巣状分節性糸球体硬化症(FSGS:NOS variant)の診断となり、引き続き精査予定であったが通院を自己中断し受診していなかった。X年2月に頭痛を主訴に再診した際、尿蛋白(3+)、尿潜血(3+)に伴い、BUN64.7mg/dL、Cre3.75mg/dL、eGFR13.4 mL/min/1.73㎡と腎機能障害を認め、精査のため再度腎生検を行った。

【2回目の入院時検査所見】

尿蛋白(3+)、尿潜血(2+)、尿中RBC55-99/HPF 糸球体型赤血球検出あり

1日推定尿蛋白2.71g/gCre、1日蓄尿尿蛋白1.8g/day

TP10.1g/dL、Alb3.1g/dL、BUN59.0mg/dL、Cre4.07mg/dL、eGFR12.3 mL/min/1.73㎡

Na138mmol/dL、K5.0mmol/L、Cl104mmol/L、Ca8.28mg/dL、P4.3mg/dL、CRP1.08mg/dL

T-cho100.6mg/dL、IgG4051mg/dL、IgM1112mg/dL、IgA482mg/dL、C3:84mg/dL、C4:15mg/dL、抗核抗体160倍 speckled、 血中M蛋白陰性、尿中BJ蛋白陰性

IL-6:8.3pg/dL、VEGF:850pg/dL、IL-2R:3741U/mL、IgG4:141mg/dL

鼠径リンパ節生検において、リンパ濾胞間領域にCD138染色で陽性である形質細胞のシート状の浸潤を認め、キャッスルマン病と診断した。

【腎病理所見】

X-3年の腎生検

光顕所見では1個の糸球体で分節性硬化を認めた。蛍光抗体法ではIgM、C1q、λが陽性であったが非特異的と判断していた。

電子顕微鏡において基底膜の3層構造は保たれるが浮腫状で上皮下腔の拡大を認めた。外透明層を中心に高子密度沈着物が疑われた。

X年の腎生検

光顕所見では管外細胞増多の所見が中心であり26%の糸球体で半月体形成を認めた。

一部、形質細胞を主体とした間質細胞浸潤を認めた。免疫染色でのIgG4陰性でありIgG4関連疾患は否定的であった。

蛍光抗体法ではIgAがメサンギウム領域に陽性、C1qとλが基底膜に沿って線状に陽性であった。蛍光抗体は凍結切片からとホルマリン切片からと行ったがIgGは共に陰性であった。IgGサブクラスも全て陰性であった。

電子顕微鏡では、内皮下浮腫や二重化、基底膜内と一部上皮下に高電子密度沈着物を認めた。沈着物の精査のため質量分析を依頼し、IgG-λが検出された。

【経過】

ステロイドパルス(PSL500mg/day)を施行後後療法としてPSL40mg/day(0.8g/kg/日)を投与し漸減した。尿蛋白0.11g/gCre、腎機能もCre1.99mg/dLと改善傾向となり、入院37日に退院となる。X+4年経過後もBUN42mg/dL、Cre2.13mg/dL、尿蛋白0.09g/gCre、尿潜血(-)。腎障害は残るが安定して経過している。

【腎生検所見の疑問点】

・1回目と2回目の腎生検で電子顕微鏡所見において基底膜内に高電子密度沈着物が疑われたが、沈着物としてよいか。・質量分析の結果とIFでC1q、λが陽性でありPGNMIDが疑われたが、蛍光抗体法では凍結切片、ホルマリン切片からのIgG染色は陰性であった。質量分析でIgG-λが検出されており、PGNMIDの診断としてよいか。